比容積の見方と使い方

【樹脂の射出成形】比容積の見方と使い方

比容積の見方と使い方

 流動解析する上で、材質の粘度・比熱・比容積等の物性を見る機会があると思います。それぞれ、粘度は流動性に、比熱は固化速度に、比容積は収縮に影響を与えます。今回は、比容積の見方と、どのように扱うのか、例を上げてご紹介します。

比容積と密度の関係

比容積と密度

 比容積は密度の逆数を示します。密度の単位が、 kg/m3 や g/cm3 であるのに対し、比容積は、 m3/kg や cm3/g となります。では、なぜ流動解析では、密度ではなく比容積を使うのでしょうか。それは、熱や圧力によって変化するのが体積のため体積を確認することになるからです。その点を、掘り下げてご説明します。

流動解析で扱う比容積 = PVT特性値

  •  P・・・Pressure(圧力)
  •  V・・・Specific Volume(比容積)
  •  T・・・Temperature(温度)

 これら3つの項目から成っています。X軸に温度、Y軸に比容積、そこに圧力毎の変化をプロットしたグラフです。

 下記グラフには2つのデータがプロットされています。

データ内容

青色・・・材質A、圧力0Mpa
緑色・・・材質A、圧力150Mpa

比容積

 圧力0Mpaのグラフが、圧力150Mpaのグラフより上にあります。これの意味することは、同じ温度では、低圧の方が比容積が大きいことです。

 言い換えると、「同じ温度」で かつ 「同じ重量」では、低圧の方が体積が大きいことを意味します。

ジンさん

「低圧の方が体積が大きい」
これはイメージしやすいのではないでしょうか。圧力をかけると(高圧になると)、潰れて小さくなるといった感じです。

圧力をかけた場合の比容積の変化

 圧力をかけた場合、下のグラフの矢印のように、青のグラフから緑のグラフへ移ります。Y軸を見てもらうとわかりますが、温度変化がない場合、比容積が減ります。

 これを、図で表すと、下のイメージ図のようになります。100gの製品(図の左側)があったとして、ここに圧力を加えると、「ぎゅっ」と押しつぶされるため、重量は同じ100gでも、体積は小さくなります。

温度を下げた場合の比容積の変化

 温度を200度から25度へ下げた場合、下のグラフの矢印のように、青のグラフの200度から青のグラフの25度へ移ります。Y軸を見てもらうとわかりますが、温度を下げることで、比容積が減ります。

 これを、図で表すと、下のイメージ図のようになります。100gの製品(図の左側)があったとして、ここで200度から25度へ温度を下げると、液体から固体へ状態変化しているため、重量は同じ100gでも、体積は小さくなります。

圧力を下げて、温度も下げた場合の比容積の変化

 まず、圧力を150Mpaから0Mpaに下げることで、緑のグラフから青のグラフに移ります。さらに、温度を200度から25度へ下げることで、下のグラフの矢印のように、200度の緑の地点から25度の青の地点に移ります。Y軸を見てもらうとわかりますが、比容積が減ります。

ジンさん

 この関係性が実際の比容積の変化です。実成形では、温度を上げて充填し、保圧をかけます。キャビティー内圧力(製品に実際にかかっている圧力)がかかった状態が緑グラフとなり、冷却されて圧力が抜けた状態が青のグラフとなります。

2種のグレードを比べ、収縮の大きさを比較

 次は、2種類の樹脂グレードを比較し、どちらの収縮の方が大きくなるか実際に確認してみます。材質Aと材質B のPVT特性のグラフを下記に示しました。

データ内容

青色・・・材質A、圧力0Mpa
緑色・・・材質A、圧力150Mpa
オレンジ色・・・材質B、圧力0Mpa
茶色・・・材質B、圧力150Mpa

 材質Aと材質Bの0Mpaの比容積は(青色オレンジ色)、グラフがほぼ重なっており、比容積は温度を変えても同じように推移していることがわかります。

 材質Aと材質Bの150Mpaの比容積は(緑色茶色)、高温・低温ともに材質Aの緑色の方が比容積が高くなっています。

比容積1

 製品内圧150Mpaで樹脂温度198度から圧力0Mpaの樹脂温度25度まで冷却した時の比容積の変化は、
・材質Aの比容積の変化は赤の矢印。比容積の差=0.0741
・材質Bの比容積の変化は青の矢印。比容積の差=0.0674
となります。そして、比容積の変化が小さいことは、体積収縮が小さいことを意味します。
 ⇨ 材質Aと比べ、材質Bの方が体積収縮が小さい。

比容積2

 これを、図で表すと、下のイメージ図のようになります。金型のキャビティー体積を100cm3とすると、比容積の逆数が密度となりますので、そこから材質Aが128g・材質Bが130gと重量が出ます。温度198度・圧力150Mpaの状態では、密度が異なるため、重量も異なります。しかし体積は同じです

 ここから、圧力0Mpa・温度25度まで冷却します。冷却しただけなので、それぞれの重量に変化はありません。0Mpa・25度の状態では、上のグラフから比容積は同じのため、密度も同じで1.41g/cm3です。そうすると、材質Aの128gに対する体積と材質Bの130gに対する体積では、材質Bの体積の方が大きくなります。

 ここで、材質Aと材質Bの体積に差が生じました。この体積差を比較することで、どちらの材質の方がより収縮するかがわかります。今回は、材質Bの方が体積収縮が小さいことが分かります。

比容積A

まとめ

 いかがたっだでしょうか。数字がたくさん出てきてしまい、逆に分かりにくくなったかもしれません。

 体積収縮を確認するには、PVT特性を見て、実成形の成形温度と製品内圧から25度0Mpaに変化した時の比容積の変化量を見ることで分かります。特に、材質を比較する際に、どちらの方がより収縮するのかを判断する時に使えます

 注意する点は、この体積収縮がそのまま寸法に反映されるかというと、そうではなく、実際には、内径・外径・外寸など寸法収縮率は異なっているのが普通です。体積の収縮=寸法の収縮とはならず、製品の厚みの差や型内での冷却の差などがあるため、より大きく収縮する箇所や、ボイドとなる箇所があります。

 成形条件を変化させる(型温や冷却時間)だけでも、製品寸法の収縮率は変わってきます。ですので、比容積を見る際は、材質を比較するときの判断材料の1つとして扱って頂けたらと思います。

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