必要型締め力の計算は、設計段階で重要となってきます。
仮に、設計で見込んでいた型締め力より、さらに大きな型締め力が必要となった場合、大きな成形機に載せ換える必要がでてきます。
金型サイズ等に問題なく、載せ替えることができたとしても、成形機のサイズが大きくなることで、成形固定費が大きくなり、原価が上がってしまいます。
無理に小さい成形機を使えば、バリが発生し、大きな成形機を使えば、見積もり時の原価より高くなってしまいます。
そのため、必要型締め力の計算は、設計段階で重要となります。計算方法はとても簡単なのですが、実は、本当に必要な型締め力の算出はとても難しいです。
そこで、基本的な型締め力の計算の仕方と、精度を上げる考え方を紹介したいと思います。
必要型締め力の計算方法(基本)
まず、基本の計算方法を示します。
- F:必要型締力(tf・トンフォース)
- p:キャビティ内圧力(kgf/cm^2・キログラムフォース)
- A:投影面積の合計(cm^2・平方センチメートル)
計算式としては、キャビティ内圧力に投影面積を掛けると、型締め力が計算できます。内圧の単位には注意してください。簡易計算上、保圧をキャビティ内圧力と捉えて計算することが多いため、保圧の単位がMpaの場合は10.2倍し、kgf/cm^2として下さい。(1Mpa ≒ 10.2kgf/cm^2)
厳密には、キャビィティ内圧と保圧は異なります。それは、圧力ロスがあるためです。また、投影面積は、製品部分とランナー部分を含みます。圧力ロスに関しては、後述します。
キャビィティー内圧力に関しては、ググって頂けると分かりますが、様々な数値が書かれています。樹脂毎におおよその数値が指定されていたり、精密成形品と汎用成形品とを分けて、精密成形品では汎用成形品より+100~+200kgf/cm^2と書かれていたりします。
残念なことに、樹脂毎の推奨内圧は、実務上存在しません。計算式はとても単純で、分かりやすいのですが、このキャビティ内圧を算出することは、とても難しいのです。それでも、設計段階で、必要型締め力を算出する必要があります。CAEソフトの流動解析を利用すると分かるのですが、CAEソフトがなくても、考え方を知っておくと型締め力算出の参考となると思います。
実用的な必要型締め力を算出する方法
1. 保圧とキャビティ内圧力の違い
型締め力を算出する際の投影面積は、ランナー部分と製品部分を含みます。ランナーが製品に比べ相当に小さい場合は、簡易的に省いて計算することもあります。そして、上図のように保圧と製品内圧力には差が生じます。保圧は、射出成形機の射出圧力に相当し、スプル先端にかかっている圧力に相当します。そこからランナー、ゲートと通り製品部に圧力が伝わりますが、このとき、必ずと言っていいほど、圧力ロスが起きます。
- スプルー・ランナーの長さ
- スプルー・ランナーの太さ
- ゲートの大きさ
そのため、多数個取りでランナーが長くなるものや、トンネルゲートを使用しゲート径が小さくなるものに関しては、製品の中まで届く圧力が小さくなります。トンネルゲートは、型開きでゲートカットが済むため、ゲートカットの後作業のいらない便利な、ゲート仕様ですが、利用には注意が必要です。また、流動性の悪いアクリル樹脂や、ガラス入りなどのゲートが摩耗してしまう樹脂には不適となります。
流動解析をすると、保圧が低い程、製品内圧のロス率が大きくなる傾向にあります。ですので、保圧を10%上げると、キャビィティー内圧が10%上がるのではなく、実際には、10%以上上昇します。下記グラフは、1例で、ゲート径の大きなモデルで流動解析をしています。縦軸が圧力ロス率、横軸が保圧です。保圧を上げるほど、圧力ロス率が減少していきます。
下記グラフでは、25Mpaの保圧でロス率3.5%程度ですが、ゲートを絞るほど、つまりゲートが小さいほど、この圧力ロス率は大きくなります。実際に解析していると50%ロスという数字も出ることがあります。(モデル、あるいは条件が悪い場合に起きます)
2. キャビティー内圧力の決め方
型締め力を決定するには、キャビティー内圧力をどれくらい確保する必要があるのかにかかってきます。キャビティ内圧力が低いと、ヒケやボイドが発生しやすくなります。また、キャビティー内圧力が高すぎると、キャビ残りすることがあります。
- ヒケ・ボイドが防止できるだけの圧力を確保する
- キャビ残りしない圧力に抑える
流動解析ソフトがあれば、実際に、保圧を変化させ、そのときの圧力変化を見て判断します。ゲートシールすると、製品内に保圧が届かなくなるため、あとは、製品内圧が減少していくだけです。その減少スピードが速すぎる場合、内圧不足によりヒケ・ボイドの可能性が高くなります。反対に、型開きを予測した時間でも、まだ製品内圧が残っている場合は、キャビ残りする可能性があります。
必要な製品内圧は、ゲートシール時間と保圧にとても影響を受けます。流動解析ソフトが無い場合は、冷却時間を算出する式がありますので、既存品の成形条件を参考にし、ゲートシール時間を計算し、保圧とゲートシール時間のデータを取ることで、新規製品の必要保圧が予測可能と考えられますが、かなり、大変な作業となると思います…。
また、流動解析ソフトがあったとしても、実成形のデータはとても大切です。樹脂によっては、ヒケ易い樹脂やそうでない樹脂があります。また、肉厚であるとヒケやボイドが起きやすいですが、肉厚であっても均一な厚みであれば、起きにくくなります。
このあたりは、流動解析ソフトとだけ、にらめっこしていても分からないことです。型締め力を分析する上でも、成形の知識、流動解析ソフトの習熟が必要となります。
まとめ
いかがでしたでしょうか。型締め力の計算は、実はけっこう難しいのです。厚肉製品を成形する場合は、特に注意が必要ですので、一般的に樹脂毎に示されるようなキャビティー内圧は使用できません。流動解析ソフトを利用するか、根気よくデータを取り続けて、傾向を算出するしかありません。
成形の知識を取り入れ、設計ができると、さらに一段と成形性の良い金型ができると思います。私も、日々いろいろなことに興味を持ちデータを取るようにしています。根気が必要ですが、一歩一歩進んでいきましょう。